こだわり

地元の木と職人でつくる世代を超えていく「器」

家はひとのために在り、風土のなかで生きていく、一つの生命体でもあります。近年の建築過程における工業化・均一化は風土性の喪失だけではなく、住まうひとの個性まで奪ってはいないでしょうか。

古来、私たちの祖先は、いまは伝統構法と総称される木組みで家を造ってきました。それは梁が荷重を支えることができる適切な距離で柱を立て、梁で繋ぐ、あるいは梁を咬み合わせてのせる構法もあります。地域の森から木を与えられ、木の性質を生かしながら架構し、住むひともまた融通無碍に対応しながら、それを美しい空間造形にまで高め、地域とその家族固有の文化を育んできたのです。

 造り手はまた、地域の森を生かし、生きものである木を家に再生することで、住むひとの身体に馴染み、風土に違和感にない造形物としての空間を、環境資産として建て続けてきました。

 風土を凝視し、気候を検証し、住み手と造り手とが顔を合わせ、敷地に立って初めて求められる「家」とはなにかを考える。これこそが自由設計であり、注文住宅であり、家づくりの第一歩であると、私たちは考えます。

 丸順工務店は、遠野に根ざした小さな工務店です。しかし、岩手の一地方から見える家の本質もあります。伝統や文化。ひとの暮らしの営み。森や木。四季の移ろいの機徴。あたりまえの手法。それらを大切に育みながら、一棟一棟の家を心を込めて創り続けていきたいと願っています。

 

忘れてはならない固有の文化

〜暮らしの機徴と自然の営みが併せ持つ膨大な英知を後世に伝承していくためにも〜

岩手の農村部には、古くから南部曲がり家という特徴的な民家形態がありました。外観的な特徴だけでなく、馬とひととが深く関わりあいながら暮らすというこの独特の形態は、用と美だけでなく、環境との親和性にも秀でた建築として、岩手固有の財産として受け継がれています。

 遠野にはまた、「中搦(ちゅうがらみ)」と呼ばれる工法があります。主に「船がい造り」(軒の出を深くする工法)に使われますが、その機能を意匠性は、農村部にも街なかにも融和し、そこには南部曲がり家と同様、岩手の住文化を継承するための、多くの示唆が隠されているかのようにも思えるのです。

 先人たちは、地域の木を畏敬の念をもって山から伐り出し、それを時間をかけて感想し、風土にあった意匠の家を、職人の技術と知恵で継承してきました。住み手もまた、木や土や石という自然素材を理解し、風土とおおらかに付き合う心で、個人資産とは別の視点で、環境資産としての家を受け継いできたのです。

 そうして、地域の製材屋、材木屋、大工や左官など、顔の見える関係でつながった職人集団によって造られる家が、地域の経済を維持し、彼らと住み手との半永久的な相互理解さえも容易にしてきたことを、私たちは忘れてはなりません。

 利潤確保のための合理性だけで家を考えるのではなく、そこでひとが生き、暮らすという現実を謙虚に捉えていく。さらには、自然を生かし、地域で人が働くということ、風土や文化の継承という視点をも含めた、家づくりのシステムが、いまほど求められている時代はありません。

 伝統の固執だけでなく、科学に裏付けされた性能を具現化する思想や技術も必要でしょう。ひとをいかにして病気やケガから守っていけるか。加齢後も可変的に住み続けていけるデザインを実現するか・・・など「予防医学」や「居住福祉」といった視点も大切にした家づくりがここにあります。

 

職人であるという誇りが支える家づくり

〜木を見て、ひとを観ることを大切にしていきたい〜

 かつて、それぞれの地域で行われていた家づくり。山の製材所では、一本一本の木の性質を見て挽き、適材適所に木取りをし、ほとんどの木を無駄なく使い切りました。

 大工もまた、木のくせや乾燥の程度を自分の目で確かめ、樹種に応じて、使う柱や梁の本数、大きさを調べ、発注を行い、そして入手した一本一本の木材の素性、木目、節があるかないかを見極めながら、木と木の継ぎ方を考えていたのです。

 そこには一本一本の木と、職人がそれまでに経験を積んできた知識や勘、自らの技術との対話があります。

 私たち人間が、手づくりによってできた上質なものに共感を覚えるのは、それは創造する人間の厳しい修練を積んだ高度な手技とともに、その人間の、もの造りに対する真摯な態度を読み取るからではないでしょうか。

 建築の部品が、細部にいたるまで商品化され、家そのものも規格化されつつあります。現場で大工がノコやカンナで木材を加工し、部材を一つひとつこしらえることも、めっきり少なくなりました。

 規格化されたものは、建物の個性をなくすばかりか、敷地との形状、環境との親和性を最初から失っています。敷地は、一つとして同じものはなく、地形は同じでも方位や環境、そこから見える風景も違い、光の方向、見える風景もまた違うのです。

 自由設計・注文住宅の原点にあるものは、住まうひとの個性であり、それと敷地や風景の個性をいかに組み合わせていくか。それらがあって初めて、建物のかたちが生まれ、その体現に職人集団の英知と技術が発揮されていくものなのです。

 丸順工務店は、生粋の職人の集まりです。ひとの暮らしの営みを凝視し、自然の本質に敬意を表しながら、一軒一軒の家に生命を吹き込んでいく。こうした思想と技術に裏打ちされた家は、まさしく世界に一つしかない、家となっていくはずです。少なくとも、そう信じてやまない職人たちがここにいます。